こんにちは。ペダルノート 運営者の「アキ」です。
長く一緒に走ってきた愛車も、時間が経てばどうしても傷がついたり、塗装が色あせてきたりしてしまうものですよね。「そろそろ愛車をリフレッシュさせたいな」そんな時にふと頭をよぎるのが、ロードバイクのフレーム塗装ではないでしょうか。新車のような輝きを取り戻すレストアや、世界に一台だけのカラーに染めるカスタムペイントは、私たちサイクリストにとって憧れのカスタマイズです。
でも、いざ検討し始めると「ショップに依頼したときの剥離費用や値段の相場はいくらなのか」「評判の良い業者はどこなのか」と、具体的なことがわからず足踏みしてしまう方も多いはずです。あるいは「ホームセンターのスプレー缶を使って、DIYで安く仕上げられないかな?」と考えることもあるかもしれません。しかし、特にカーボンフレームは扱いが非常にデリケートで、知識なしに進めると取り返しのつかない失敗につながることもあります。そこでこの記事では、私の経験も踏まえながら、費用や業者の選び方、そしてDIYのリスクまで、ロードバイクのフレーム塗装に関する正しい知識をわかりやすく整理してお話しします。
ロードバイクのフレーム塗装にかかる費用と業者選び

まずは、プロのショップや専門業者に依頼する場合の話から始めていきましょう。「たかが色を塗るだけでしょ?」なんて思っていると、見積もりを見た瞬間に目玉が飛び出るかもしれません。餅は餅屋と言いますが、やはり塗装のクオリティと耐久性、そして何より安全性を求めるなら、プロにお任せするのが一番確実です。とはいえ、決して安い買い物ではありません。「思ったより高かった」「後から追加料金が発生した」といったトラブルを避けるためにも、費用の内訳や業者の選び方、そしてなぜその金額になるのかという背景について、じっくりと見ていきましょう。
- 全塗装の料金相場と値段の内訳
- 持ち込み可能な専門業者の評判と選び方
- 剥離費用やデザインごとの価格
- カーボンやアルミ等の素材別注意点
- 傷の補修や部分的なリペア対応
全塗装の料金相場と値段の内訳

プロの塗装業者に依頼することを検討し始めたとき、まず各ショップのウェブサイトで料金表をチェックしますよね。そこで「基本料金:35,000円〜」といった表記を見て、「お、意外と安いかも! 5万円くらいで新品同様になるなら最高じゃん」と胸を躍らせた経験はありませんか? 実はこれ、かつての私が陥った大きな罠でした。
ウェブサイトに大きく掲載されている金額は、あくまで「フレーム単体が持ち込まれ、下地処理が不要(または簡易的)で、最もシンプルな単色塗り」をした場合の最低価格であることがほとんどです。私たちが実際に愛車をお店に持ち込んで依頼する場合、そこには必須となる工程や、現代のロードバイクならではの複雑な作業コストが積み上がっていきます。見積もりを見て「倍以上の金額になった!」と驚かないために、費用の構造を「3つの柱」+「隠れたコスト」に分解して、解像度を上げていきましょう。
1. 基本塗装料金:デザインへのこだわりが価格を押し上げる
これは純粋に「色を塗る作業」にかかる費用です。3万円〜5万円程度が相場ですが、これは「ソリッドカラー(ラメやパールのない単色)」の場合です。ここから以下のような要素で価格が加算されていきます。
- 特殊塗料オプション
メタリック、パール、キャンディ、マジョーラ(偏光)などの塗料は材料費が高く、塗装工程(積層回数)も増えるため、数千円〜数万円が上乗せされます。 - 塗り分け(マスキング)費用
これが最も費用を跳ね上げる要因です。2色、3色と色を使い分ける場合、境界線を美しく仕上げるためのマスキング作業に膨大な手間がかかります。一般的に、1色追加するごとに2万円前後の工賃追加が発生します。 - ロゴ・グラフィック再現
ダウンチューブのメーカーロゴなどを塗装で再現する場合、データ作成とマスキングシートの切り出し費用がかかります。1箇所あたり3,000円〜10,000円程度が目安です。
2. 下地処理・剥離費用:仕上がりを左右する「職人の時間」
「今の塗装の上から塗っちゃえば安く済むんじゃない?」と思うかもしれませんが、プロの仕事では推奨されません。古い塗装の上に重ね塗りをすると、塗膜が厚くなりすぎて重量が増すだけでなく、各部の嵌合(かんごう)がきつくなったり、塗装の段差が浮き出たりして美観を損なうからです。
そのため、既存の塗装を完全に除去する「剥離(はくり)」が必要になります。ここで重要なのがフレームの素材です。
- 金属フレーム
薬剤(剥離剤)で化学的にドロドロに溶かして落とせるため、比較的安価(1万円〜2万円程度)で済みます。 - カーボンフレーム
強い薬剤を使うとカーボン樹脂自体を痛めてしまうため、職人が手作業でサンドペーパーを使って少しずつ削り落とす必要があります。これには膨大な時間がかかるため、剥離費用だけで3万円〜5万円以上かかるのが一般的です。
3. 分解・組立工賃:現代ロードバイク特有の高騰要因
ここが最大の盲点であり、予算オーバーの原因になりやすい部分です。塗装は全てのパーツを取り外した「フレームセット」の状態で行う必要があります。ご自身で分解してフレームだけを持ち込めるならタダですが、完成車の状態で依頼すると「分解」と塗装後の「再組立」の工賃が発生します。
特に近年のロードバイクは構造が複雑化しており、工賃が高騰する傾向にあります。
- フル内装(ケーブル完全内蔵)
ハンドルやステムの中にケーブルを通す作業は非常に難易度が高く、時間がかかります。 - 油圧ディスクブレーキ
ホースの接続やオイルの注入(ブリーディング)作業が必須となります。
昔ながらのリムブレーキ車なら2万円程度で済んだ工賃が、最新のフル内装ディスクロードだと4万円〜5万円以上になることも珍しくありません。
4. 見落としがちな「隠れコスト」:消耗品と物流費
さらに忘れてはいけないのが、分解時に交換必須となるパーツや物流コストです。
意外とかかる!追加費用のリスト
- 再利用不可パーツ
ブレーキホース、シフトワイヤー、バーテープなどは一度外すと再利用できません。これだけで1万円前後は見ておく必要があります。 - 劣化パーツの交換
分解ついでに、ゴリゴリになったBB(ボトムブラケット)やヘッドベアリングを交換する場合、パーツ代がかかります。 - 往復送料
遠方の有名ショップに配送で依頼する場合、専用の梱包箱代と往復の大型便送料で1万円近くかかることもあります。
【保存版】現実的な費用シミュレーション
これらを踏まえて、実際に依頼した場合の「リアルな見積もり」を2パターン作成しました。最低ラインと、こだわりラインの差を確認してみてください。
| 項目 | パターンA:最低限プラン (リムブレーキ・単色・ロゴなし) | パターンB:こだわりプラン (ディスクロード・2色塗り分け・ロゴ再現) |
|---|---|---|
| 基本塗装料金 | 40,000円 | 50,000円(メタリック等) |
| デザインオプション | 0円 | 30,000円(塗り分け+ロゴ) |
| 剥離・下地処理 | 30,000円(カーボン) | 40,000円(カーボン丁寧仕上げ) |
| 分解・組立工賃 | 20,000円 | 45,000円(油圧・内装) |
| 消耗品・パーツ代 | 5,000円 | 15,000円(ホース・バーテープ等) |
| 消費税(10%) | 9,500円 | 18,000円 |
| 総額目安 | 約104,500円 | 約198,000円 |
いかがでしょうか。「塗装=色替え」と軽く考えていると、約20万円という金額に驚愕するかもしれません。しかし、これは単なる出費ではなく、「フルオーバーホールを行ってバイクの性能を蘇らせ、さらに世界に一台だけのデザインを手に入れる」という、究極の愛車リフレッシュ計画だと捉えてみてください。そう考えれば、新車を買い替えるよりも安く、愛着のあるバイクとさらに長く付き合っていける素晴らしい投資になるはずです。
もし予算を抑えたい場合は、「自分で分解して持ち込む(バラ完スキルが必要)」や、「塗り分けをせずにステッカーでロゴを貼る」といった工夫で、数万円単位のコストダウンが可能です。特に、ロードバイクのバラ完にかかる費用と組み立てコストを理解しておくと、「どこまで自分で作業して、どこからプロに任せるか」の線引きがしやすくなります。ショップと相談しながら、予算内で実現できるベストなプランを探ってみてくださいね。
持ち込み可能な専門業者の評判と選び方

「近所の車の板金屋さんに頼めば安く済むんじゃない?」
塗装を検討し始めた当初、私は本気でそう考えていました。しかし、ロードバイクの塗装は、自動車のそれとは全く異なる専門技術が必要です。パイプの厚みはわずか数ミリ、素材は熱に弱いカーボンや酸化しやすいクロモリ、そして複雑に入り組んだ形状。これらを理解せずに一般的な板金塗装の設備(特に高温の乾燥ブース)に入れてしまうと、フレームが変形したり、強度が低下したりする致命的なリスクがあります。
だからこそ、私は声を大にして「自転車専門の塗装業者」への依頼を推奨します。ここでは、日本国内で実績があり、実際にサイクリスト仲間からの評判も高い「四天王」とも言える専門業者をご紹介します。それぞれ得意とする土俵が全く異なるので、自分の目的に合った業者を見極める参考にしてください。
| 業者名 | 得意分野 | こんな人におすすめ(ターゲット) | 概算予算感 |
|---|---|---|---|
| カーボンドライジャパン (CDJ) | カーボン補修 非破壊検査 | ・高価なカーボンフレームを長く乗りたい人 ・落車歴があり強度が不安な人 ・安全性を最優先したい人 | 高め (12万円〜) |
| カドワキコーティング | 粉体塗装 (パウダーコート) | ・クロモリやミニベロに乗っている人 ・通勤やグラベルでガシガシ使いたい人 ・絶対に錆びさせたくない人 | 中〜高 (4万円〜) |
| Cook Paint Works | カスタムペイント デザイン提案 | ・人と同じバイクは嫌な人 ・おしゃれなストリート感が欲しい人 ・細かい指示より「センス」にお任せしたい人 | 中〜高 (5万円〜) |
| 上村塗装 | レストア ロゴ復元 | ・古い名車を新車同様に戻したい人 ・廃盤になったロゴを再現したい人 ・オリジナル重視のビンテージ派 | 中 (7万円〜) |
1. 安全と性能の守護神「カーボンドライジャパン (CDJ)」
カーボンフレームの塗装において、国内で右に出るものはいないと言っても過言ではないのがCDJです。ここの最大の特徴は、単なる塗装屋ではなく「カーボン補修のプロフェッショナル」であるという点です。
CDJを選ぶべき理由:超音波診断
塗装を剥離した段階で、医療用のような「超音波診断機」を使ってフレーム内部をスキャンしてくれます(オプション)。目視では発見できない内部の剥離やクラック(ひび割れ)を可視化できるため、「このフレーム、中古で買ったけど中身大丈夫かな?」という不安を完全に払拭できます。もし損傷が見つかれば、その場でドライカーボンによる補強修理を行い、その上から塗装して新品同様に仕上げてくれます。費用はかかりますが、命を預ける機材としての信頼性は抜群です。
2. 最強の鎧を纏うなら「カドワキコーティング」
横浜に拠点を置くカドワキコーティングは、「粉体塗装(パウダーコーティング)」のパイオニアです。これは液体の塗料ではなく、粉末状の顔料を静電気でフレームに付着させ、専用の窯で焼き付けて定着させる技術です。
形成される塗膜は一般的な溶剤塗装の数倍の厚みがあり、柔軟性と強靭さを兼ね備えています。飛び石が当たっても、チェーンが暴れても、カドワキの塗装なら塗装剥げ(チップ)が起きにくいのが特徴です。そのため、折りたたみ機構でフレーム同士が接触しやすいミニベロ(BirdyやBrompton)や、泥や砂利が跳ねるグラベルロード、絶対に錆びさせたくないクロモリユーザーから絶大な支持を得ています。ただし、高温で焼き付ける工程が必要なため、熱に弱いカーボンフレームへの施工は原則として推奨されていません(※低温パウダーなどの特殊対応を除く)。
3. センスの塊、アートを走らせる「Cook Paint Works」
東京・幡ヶ谷の人気自転車店「Blue Lug」の塗装部門から独立したのがCook Paint Worksです。ここの魅力は圧倒的な「センス」と「提案力」にあります。
「夕焼けみたいな感じで」「90年代のエアジョーダンっぽく」といった抽象的なオーダーでも、職人さんがその意図を汲み取り、期待以上のカッコいいデザインに仕上げてくれます。また、フレームだけでなく、ステムやシートポスト、ハブまで同色に塗る「マッチペイント」も得意としており、バイク全体を一つの作品としてコーディネートしてくれます。レース機材というよりは、街乗りピストやネオクラシックなロードバイクで、自分だけの個性を爆発させたい方には最高のパートナーとなるでしょう。
4. 時を戻すレストアの魔術師「上村塗装」
大阪の老舗、上村塗装工業所は「レストア(再生)」の駆け込み寺です。30年、40年前のロードバイクは、塗装がボロボロになっているだけでなく、メーカーのロゴデータすら現存していないことが多々あります。
上村塗装の凄さは、剥離前のボロボロの状態からロゴやラインの寸法を精密にトレース(写し取り)し、データ化してマスキングを作成、そして塗装で見事に再現する技術にあります。ステッカーを貼るのではなく「塗装でロゴを描く」ため、経年劣化で剥がれる心配もありません。「親父から譲り受けたクロモリを、当時の姿のまま蘇らせたい」といったエモーショナルな依頼に応えてくれる、職人魂を感じる業者です。
【重要】失敗しない依頼のタイミングと注意点
最後に、業者に依頼する際の超重要なアドバイスを一つ。それは「納期」です。
どの業者も非常に人気があるため、特にサイクリストがメンテナンスを考え始める「冬場(オフシーズン)」や「春先の乗り出し前」は注文が殺到します。この時期に依頼すると、納期が3ヶ月〜半年待ちになることも珍しくありません。「来月のレースに使いたい!」と思って持ち込んでも、物理的に間に合わないことがほとんどです。
スムーズに依頼するためのステップ:
- まずはメールで「車種」「希望の内容」「現在の写真」を送って概算見積もりと納期を確認する。
- ショップと相談して、作業の予約枠を押さえる。
- 実際に送る(または持ち込む)のは、自分の番が回ってくる直前にする(ショップも保管場所には限りがあるため)。
塗装は急かして良いものができる作業ではありません。余裕を持ったスケジュールで、じっくりと理想の一台を作り上げていきましょう。
剥離費用やデザインごとの価格

ショップから送られてきた見積書を見て、「えっ、フレームを塗るだけでこんなにするの!?」と絶句してしまった経験、私にもあります。材料費なんて知れているはずなのに、なぜ10万円、20万円という金額になってしまうのか。その原因の多くは、「デザインの複雑さに比例する作業時間」と「カーボン特有の剥離の手間」にあります。塗装の世界において、「時間=コスト」です。職人さんがどれだけの時間をあなたのフレームに費やすかで、価格はシビアに変動します。ここを深く理解しておくと、予算内で最大の満足度を得るための「賢いオーダー」ができるようになりますよ。
デザインによる価格変動の仕組み:塗料と手間の掛け算
塗装料金は、「どんな塗料を使うか」と「何色使うか」で劇的に変わります。ランクごとの特徴とコスト感を整理してみましょう。
塗料タイプ別のコストと特徴
- ソリッド(単色):【標準価格】
ラメやパールの入っていない、最も基本的な色です。材料費も安く、ムラになりにくいため工数も抑えられます。まずはこれがベース料金となります。 - メタリック・パール:【+1万〜2万円】
キラキラした金属粉や雲母が含まれています。これらは光の反射で美しく輝きますが、均一に並べるために高い吹き付け技術が必要となり、クリア層の厚みも増すため価格が上がります。 - キャンディ・マジョーラ:【+3万〜5万円以上】
特殊塗装の領域です。「キャンディ」はシルバーの下地の上に「透き通る色付きクリア」を重ねる技法で、飴細工のような奥行きが出ます。「マジョーラ」は見る角度で色が変わる偏光塗料で、塗料の原液自体が非常に高価(数万円単位)です。
費用を跳ね上げる最大の要因「塗り分け(マスキング)」
もし予算を抑えたいなら、最も避けるべきは「複雑な塗り分け」です。例えば、フレームを黒と赤のツートンカラーにする場合、単に2色塗るだけではありません。以下のような気の遠くなる手順が必要になります。
- 全体をベースカラー(例:赤)で塗る。
- 完全に乾燥させる(数日〜1週間)。
- 赤に残したい部分をマスキングテープで覆う。
※ここが最重要! 0.1mmのズレも許されない精密作業で、曲線にテープを追従させるには熟練の技が必要です。 - 2色目(例:黒)を塗る。
- 乾燥させてテープを剥がす。
- 色の段差(テープの厚み分)を研磨して平らにし、クリアを吹いて閉じ込める。
この工程を経るため、業界の常識として「1色追加=2万円〜3万円のアップチャージ」が発生します。3色、4色と増えれば、それだけで10万円コースです。さらに、メーカーロゴを塗装で再現する場合も同様で、ロゴデータをトレースしてカッティングシートを作成し、貼り付けて塗るという手間賃(1箇所数千円〜)がかかります。
剥離の手間賃「サンディング」の真実
次に、見積もりの「下地処理費用」に含まれる「剥離(はくり)」についてです。これは古い塗装をどう処理するかという問題です。
最も安価なのは、古い塗装を剥がさずに上から塗る「上塗り(オーバーペイント)」です。剥離費用がかからないため安いですが、塗膜の上に塗膜が乗るため、フレーム重量が50g〜100gほど増えたり、BB周りのネジ山が埋まったり、見た目が「ぼってり」したりするデメリットがあります。
美しく仕上げるには、古い塗装を全て除去する「全剥離」が必要ですが、ここに素材の壁が立ちはだかります。
なぜカーボンの剥離は高いのか?
金属フレーム(アルミ・クロモリ)であれば、強力な「剥離剤」を塗るだけで、塗装が化学反応でドロドロに溶けて剥がれます。作業も早く、コストも抑えられます。
しかし、カーボンフレームに剥離剤は絶対に使えません。 カーボンを固めている樹脂(エポキシ)まで溶かしてしまい、フレームを破壊してしまうからです。そのため、職人は「手作業で、サンドペーパーを使って、ひたすら塗装だけを削り取る」という途方もない作業を行います。カーボン繊維を傷つけず、数十ミクロンの塗装膜だけを削り取る技術と、丸一日以上かかる拘束時間。この人件費こそが、カーボン剥離費用(3万円〜5万円)の正体なのです。
「高い」と感じるかもしれませんが、大切なフレームの寿命を縮めずに、極限まで薄く美しい塗装を実現するための「安全コスト」だと考えれば、決して不当な金額ではないと私は思います。
カーボンやアルミ等の素材別注意点

「ロードバイクの塗装なんて、車の塗装と同じでしょ?」もしそう思って近所の板金屋さんに依頼しようとしているなら、ちょっと待ってください。その判断が、愛車を二度と走れない状態にしてしまうかもしれません。
ロードバイクのフレーム素材には、それぞれ「絶対にやってはいけないこと(タブー)」が存在します。特に近年のバイクは素材が多様化しており、それぞれの化学的・物理的特性を無視した塗装を行うと、強度が低下したり、すぐに塗装がボロボロになったりします。ここでは、素材ごとのリスク管理について、エンジニアリングの視点も交えつつ分かりやすく解説します。
1. カーボンフレーム (CFRP):熱と溶剤に弱い「樹脂の塊」
現在主流のカーボンフレームですが、塗装においては最もデリケートで厄介な素材です。なぜなら、カーボンフレームは炭素繊維を「エポキシ樹脂」などのプラスチックで固めたものだからです。
カーボン塗装における2つの致命的リスク
- 熱による変形(高温焼付NG)
自動車の塗装では、塗料を早く硬化させるために60℃〜80℃以上の高温ブースで「焼き付け」を行うのが一般的です。しかし、カーボンに使われる樹脂には「ガラス転移点(柔らかくなり始める温度)」があり、製品によっては高温環境下で樹脂が軟化し、フレームが歪んだり、カーボン層間に剥離が起きたりする可能性があります。自転車専門の塗装店では、このリスクを避けるために低温で硬化する特殊な塗料を使ったり、遠赤外線ヒーターで温度管理を徹底したりしています。 - 溶剤による樹脂破壊(ケミカルアタック)
前述の通り、強力な剥離剤に含まれる有機溶剤は、カーボンを固めている樹脂そのものを溶かしてしまいます。こうなるとフレームはただの繊維の束になり、強度は失われます。
もしカーボンフレームを依頼するなら、「自転車の実績が豊富な専門店」一択です。「カーボン対応」を謳っていない一般的な板金屋さんに持ち込むのは、ギャンブルに近い行為だと認識しておきましょう。
2. アルミニウム合金:塗料を弾く「酸化皮膜」との戦い
アルミフレームは熱には強いですが、塗装の「密着性」に大きな課題があります。アルミニウムは空気に触れた瞬間、表面に目に見えない薄い「酸化皮膜」を形成します。この皮膜は非常に安定しているため、その上から直接塗料を塗っても、化学的に結合せず、まるでテフロン加工のフライパンのように塗料を弾いてしまうのです。
DIY塗装でよくある「ちょっとぶつけただけでパリパリと卵の殻のように塗装が剥がれた」という失敗は、ほぼ100%この酸化皮膜の処理不足が原因です。プロの現場では、「ウォッシュプライマー」や「エッチングプライマー」といった、金属表面を化学的に荒らして食いつかせる特殊な下地処理剤を必ず使用します。アルミへの塗装は、この「プライマー選び」が命です。
3. クロモリ(鉄):一瞬の隙も許さない「腐食スピード」
鉄合金であるクロモリフレームの敵は、言わずもがな「錆(サビ)」です。塗装を剥離して鉄の地肌が露出した瞬間から、空気中の水分と反応して酸化が始まります。湿度の高い日であれば、数時間放置しただけで表面がうっすらと茶色くなることもあります。
そのため、クロモリの塗装は「時間との戦い」です。剥離後は直ちに脱脂し、防錆効果のあるプライマー(錆止め)を塗布しなければなりません。このスピード感が、10年後、20年後のフレームの寿命を左右します。
クロモリだけの特権「粉体塗装」
一方で、クロモリは熱に非常に強いため、カドワキコーティングなどが得意とする「粉体塗装(パウダーコーティング)」が可能です。200℃近い高温で樹脂の粉末を焼き付けるこの技法は、カーボンや接着剤を使っているアルミフレームでは不可能ですが、クロモリなら問題ありません。結果として、ガードレール並みに頑丈で錆びにくい、最強の塗膜を手に入れることができます。
このように、素材によって最適なアプローチは全く異なります。「とりあえず色を塗る」のではなく、「素材に合わせた処置をする」ことが、愛車を長く守るための鉄則なのです。
傷の補修や部分的なリペア対応

「駐輪中に風で倒れてトップチューブに傷が入った…」
「立てかけた時にコンクリートでガリッとやってしまった…」
サイクリストなら誰もが一度は経験する、心臓が止まるような瞬間です。全塗装をする予算はないけれど、この目立つ傷だけはどうにかしたい。そんな切実な悩みを解決するのが「部分補修(スポットリペア)」という選択肢です。ここでは、プロに頼むべき深刻なケースと、自分で処置できる軽微なケースの境界線、そして具体的な対処法について解説します。
特にカーボンフレームの場合、表面の塗装傷と構造に関わるクラックの見分けは難しいテーマです。傷の状態ごとの判断基準や補修手順をより詳しく知りたい場合は、カーボン製ロードバイクの傷の補修に関する詳しい解説記事もあわせてチェックしておくと、安心して作業や業者選びができるはずです。
1. プロショップによる「ボカシ塗装」と構造修復
傷が深い場合や、見た目を完璧に元通りにしたい場合は、迷わずプロショップに相談しましょう。プロのリペアは単に上から色を塗るだけではありません。
- 高度な調色技術
自転車メーカーは塗料の配合データ(カラーコード)を公開していませんが、プロは現車に合わせてその場で色を調合し、紫外線による退色分まで計算して限りなく同じ色を作り出します。 - ボカシ塗装
補修箇所と元の塗装の境界線をグラデーション状に吹き付け、境目を肉眼では判別できないレベルまで馴染ませる高度な技術です。
費用は傷の範囲によりますが、3万円〜5万円程度が相場です。「高い」と感じるかもしれませんが、完璧な美観を取り戻せるなら安いと感じる方も多いでしょう。
カーボンフレームの「クラック」疑惑
最も怖いのは、表面の傷の下でカーボン積層が割れている(クラック)場合です。特にトップチューブやシートステーを強く打ち付けた場合は注意が必要です。
「カーボンドライジャパン(CDJ)」のような専門店では、補修塗装の前に超音波診断を行い、クラックの有無を科学的に判定します。もしクラックがあれば、ドライカーボンを巻き付けて強度を復元する「補強工事」を行い、その上から塗装で隠すことができます。見た目の美しさと、命に関わる安全性の両方を回復できるのが、専門店の強みです。
2. DIYタッチアップ:浅い傷を目立たなくするコツ
爪が引っかからない程度の浅い擦り傷や、チェーン落ちで少し塗装が剥げた程度であれば、DIYでの「タッチアップ」が有効です。ただし、過度な期待は禁物です。
DIYタッチアップの3つの鉄則
- カラーコードは存在しないと知る
自動車と違い、自転車には「カラー番号」がありません。オートバックスなどの自動車用品店で、実車を見ながら「一番近い色」のタッチアップペンを目視で選ぶしかありません。完全に同じ色は手に入らないと割り切りましょう。 - スプレーは絶対NG
「きれいに仕上げたい」という欲を出してスプレーを吹くのは最悪の失敗パターンです。色が合っていないスプレーを広範囲に吹いてしまい、小さな傷だったはずが、修正不可能なほど大きなシミになってしまいます。 - 「塗る」のではなく「乗せる」
付属の刷毛は大きすぎます。爪楊枝や極細の面相筆の先に塗料をつけ、傷の凹みにチョンチョンと塗料を「置いていく」イメージで作業します。乾燥すると痩せるので、少し盛り上がるくらいに乗せるのがコツです。
タッチアップの目的は「新品に戻すこと」ではなく、「遠目に見れば気にならないレベルにすること」や、クロモリフレームにおける「錆の進行を防ぐこと」です。精神衛生上の応急処置として、完璧を求めすぎずにトライするのが成功の秘訣ですよ。
ロードバイクのフレーム塗装をDIYする方法

ここからは、あえてイバラの道を進む「DIY派」の皆さんへ向けた内容です。「自分でやるから安く済む」と思われがちですが、質の高い塗料や工具、ケミカルを揃えると意外と出費がかさむ上、失敗のリスクも常につきまといます。それでも「自分の手で愛車を仕上げたい!」という情熱や、「ボロいフレームを安く手に入れたから実験台にして遊びたい」という探究心のある方のために、具体的な手順と絶対に守るべき注意点を解説します。
- 自分で塗る手順とスプレー缶選び
- 剥離剤の使用と下地処理のコツ
- カーボンフレームでの失敗リスク
- 便利なスプレーバイクの活用
- メーカー保証や中古査定への影響
- ロードバイクのフレーム塗装の結論
自分で塗る手順とスプレー缶選び

DIY塗装に挑戦する際、最初にぶつかる壁であり、かつ運命を分ける最大の分岐点が「スプレー缶選び」です。「ホームセンターで1本300円のアクリルラッカースプレーが売ってるから、あれでいいや!」と安易に手を出そうとしていませんか? はっきり言います。それは絶対にやめてください。その選択は、数ヶ月後にドロドロに溶けたフレームを見て後悔する未来への片道切符です。
なぜ「普通のラッカー」ではダメなのか?
ホームセンターで安価に売られている一般的なアクリルラッカースプレーは「1液性」と呼ばれ、空気乾燥だけで固まります。手軽ですが、致命的な弱点があります。それは「耐溶剤性が皆無」であることです。
ロードバイクはメンテナンス時に「パーツクリーナー(有機溶剤)」や「チェーンオイル」を頻繁に使用します。もし1液性ラッカーで塗装していると、クリーナーがかかった瞬間に塗装が溶解し、ウエスで拭き取ると色がデロデロに剥げてしまいます。せっかくの苦労が一瞬で水の泡です。
正解は「2液混合ウレタン」一択!
自転車の塗装に必須なのは、自動車補修用として販売されている「2液混合ウレタン塗料」(代表例:ソフト99 ボデーペン ウレタンクリアー)です。これは缶の中で「主剤」と「硬化剤」を混ぜ合わせ、化学反応(架橋反応)によって硬化させるタイプです。
2液ウレタン塗料のメリットとデメリット
- メリット
一度完全硬化すれば、ガソリンやシンナーがかかっても溶けない最強の強靭さを持ちます。また、プロショップの塗装に近い、肉厚で深みのある「濡れたような艶」が出ます。 - デメリット
価格が高い(1本3,000円前後)。そして、一度硬化剤を混ぜると缶の中で硬化が始まるため、「その日のうちに使い切る」必要があります(可使時間は約12時間〜24時間)。
コストを抑えるための賢い戦略として、私がおすすめするのは「カラー層まではラッカーで行い、最後のコーティング(クリア層)だけ2液ウレタンを使う」というハイブリッド方式です。下の層がラッカーでも、表面をウレタンで完全に封じ込めてしまえば、溶剤アタックを防ぐことができます。
【保存版】成功率を高めるDIY塗装の7ステップ
塗料が決まったら、いよいよ実践です。DIY塗装は技術よりも「段取り」と「忍耐」が9割です。焦らず以下の手順を守ってください。
STEP 1:分解・完全洗浄
パーツを全て取り外し、フレーム単体の状態にします。中性洗剤(食器用洗剤でOK)を使って、油汚れや泥を徹底的に洗い流します。特にBBシェルやヘッド周りのグリス残りは大敵です。
STEP 2:下地処理(足付け)
耐水ペーパー(#600〜#800)を使って、フレーム全体を研磨します。古い塗装を落とす必要はありませんが、表面のツヤが消えてマットになるまで満遍なく傷をつけます。この微細な傷に塗料が入り込んで物理的に食いつく「アンカー効果」を狙います。ここをサボってツルツルのままだと、塗装はすぐに剥がれます。
STEP 3:脱脂(だっし)※最重要
「シリコンオフ」などの脱脂剤をたっぷりと吹き付け、清潔なウエスで拭き上げます。目に見えない油分を完全に除去するためです。これ以降、絶対に素手でフレームに触れてはいけません。指先の皮脂がついた部分は、塗料を弾いて「ハジキ」というクレーターのような穴が空いてしまいます。
STEP 4:下塗り(プラサフ)
プライマー(接着剤)とサーフェイサー(微細な傷埋め)を兼ねた「プラサフ」を吹きます。薄いグレー色が一般的です。これを吹くことで、塗料の密着力が上がり、上に塗るカラーの発色が良くなります。3回ほどに分けて薄く塗り重ねます。
STEP 5:本塗装(カラー)
いよいよ色を乗せます。ここでの鉄則は「焦らないこと」。一度で色を付けようと厚塗りすると、必ず液垂れして失敗します。「薄く、乾かし(10分〜15分)、また薄く」を繰り返し、5回〜6回かけて徐々に発色させていくイメージです。スプレーは対象物から20cm〜30cm離し、フレームの外から吹き始め、フレームの外で吹き終わるように動かします。
STEP 6:仕上げ(ウレタンクリア)
カラー層が指触乾燥(指で触れてもつかない状態)したら、真打ち登場、2液ウレタンクリアを吹きます。缶の底にあるピンを押し込んで硬化剤をブレンドし、よく振ってから使用します。これが最終的な艶と保護層になります。ここでも焦らず重ね塗りし、最後の一吹きだけ少し厚めに吹いて、表面張力でテロッとした艶を出します(これが難しい!)。
STEP 7:磨き(ポリッシュ)
塗装後は、夏場なら3日、冬場なら1週間ほど放置して完全硬化させます。表面が少し波打っている(ゆず肌)場合や、小さなホコリがついている場合は、#2000の耐水ペーパーで平滑にならし、その後コンパウンド(細目→極細→液体)を使って鏡面になるまで磨き上げます。
この工程の一つひとつに化学的な意味があります。特に「脱脂」と「乾燥時間」をサボると、完成後に塗装がパリパリと剥がれたり、いつまで経っても指紋がついたりする失敗作になってしまいます。DIY塗装とは、スプレーを吹く時間よりも、待つ時間の方が長い作業です。「忍耐力」こそが、最高の仕上がりを生む最強のツールであることを忘れないでください。
剥離剤の使用と下地処理のコツ

金属フレーム(アルミ・クロモリ)をリペイントする場合、既存の塗装の上から重ね塗りをするのではなく、一度完全に塗装を剥がして「すっぴん」の状態に戻すことを強くおすすめします。塗膜の厚ぼったさを防ぎ、フレーム本来の造形を活かしたシャープな仕上がりになるだけでなく、軽量化にも繋がるからです。
この工程で活躍するのが、DIYペインターにとって魔法の液体とも言える強力塗装剥離剤、通称「スケルトン(ナトコ社製)」です。ホームセンターの塗料コーナーの片隅に置かれているこの缶が、プロ顔負けの全剥離を可能にします。
劇薬注意!スケルトンの威力と正しい使い方
剥離剤の使い方はシンプルですが、その効果は劇的です。刷毛を使ってフレームにたっぷりと液体を乗せるように塗布すると、わずか数分で化学反応が始まります。強固だったはずの純正塗装が、まるで梅干しの皮のようにシワシワと浮き上がり、ペローンと剥がれていく様子は、DIY塗装の中で最も快感を覚える瞬間かもしれません。
【警告】使用前に必ず読んでください
スケルトン等の強力剥離剤は、皮膚を溶かすほどの強烈な「有機溶剤」です。以下の安全対策を怠ると大怪我に繋がります。
- 耐溶剤手袋が必須
普通の薄いゴム手袋やビニール手袋では、薬剤が浸透したり溶けたりします。必ず厚手の「耐薬品・耐溶剤手袋」を使用してください。 - 皮膚付着時の激痛
もし皮膚に一滴でも付着すると、数秒後に「火傷をしたような激痛」が走ります。すぐに大量の水で洗い流せるよう、水道の近くで作業してください。 - 保護メガネと長袖
ブラシで擦った際に薬剤が飛び跳ねて目に入ると失明の危険があります。保護メガネ、長袖長ズボンは絶対条件です。
スピード勝負!素材別アフターケアの鉄則
塗装が浮き上がったら、スクレーパーや真鍮ブラシ(ワイヤーブラシ)を使ってこそぎ落とし、最後に大量の水で薬剤と塗料カスを完全に洗い流します。ここから先は、フレームの素材によって対応が変わる「時間との戦い」になります。
クロモリ(鉄)フレームの場合:錆との競争
鉄の地肌が露出した瞬間から、空気中の酸素と水分による酸化(錆び)が始まります。のんびり自然乾燥させていると、みるみるうちに表面が薄茶色に変色(赤錆)してしまいます。
対処法:
水洗い後はすぐにウエスで拭き上げ、ヒートガンやドライヤーで強制的に熱乾燥させてください。そして、フレームが冷めたら間髪入れずに「プラサフ(錆止めプライマー)」を吹き付けます。剥離からプライマー塗布までは、一気に行うのが鉄則です。
アルミフレームの場合:腐食(電食)への配慮
アルミは錆びにくいですが、剥離剤(特にアルカリ性のもの)に長時間浸しすぎると、アルミ素材そのものが侵されて表面が荒れてしまうことがあります。
対処法:
塗装が浮いたら速やかに洗い流し、薬剤を長時間放置しないようにしましょう。また、アルミ表面に形成される酸化皮膜対策として、塗装前には必ずアルミ対応の「プライマー(ミッチャクロンなど)」を使用してください。
塗装の世界には「下地処理が仕上がりの8割を決める」という格言があります。どれほど高価なウレタン塗料を使っても、下地処理(剥離・研磨・脱脂)が雑であれば、仕上がりは汚くなり、すぐに剥がれてしまいます。地味で過酷な作業ですが、ここを丁寧にやり遂げた人だけが、プロ並みの美しいフレームを手にすることができるのです。
カーボンフレームでの失敗リスク

さて、ここでこの記事の中で最も重要な警告をお伝えしなければなりません。もしあなたが今、手元にあるカーボンフレームを「金属フレームと同じ感覚」でDIY塗装しようとしているなら、一度手を止めてください。金属フレームでは有効だった常識的な手法が、カーボンフレームにおいては「フレームを不可逆的に破壊する行為」になることがあります。
カーボンフレーム(CFRP)へのDIY全塗装は、リスクがあまりにも高いため、当サイトとしては原則として推奨しません。なぜそこまで止めるのか、その技術的な理由と、最悪のシナリオについて詳しく解説します。
1. 剥離剤による樹脂破壊(ケミカルアタック)
金属フレームの章で紹介した「塗装剥離剤(スケルトン等)」ですが、これをカーボンフレームに使用することは自殺行為です。
一般的な強力剥離剤は、主成分に「塩化メチレン(ジクロロメタン)」などの強力な有機溶剤を含んでいます。これらは塗膜を膨潤させて剥がす作用がありますが、同時にCFRPのマトリックス(母材)である「エポキシ樹脂」をも溶解・膨潤させる性質を持っています。
ケミカルアタックが引き起こす惨事
- 樹脂の軟化・消失
剥離剤が浸透すると、カーボン繊維を固めている樹脂が溶け出します。コンクリートからセメントが抜けて砂利だけになるようなもので、構造体としての強度を失います。 - 層間剥離(デラミネーション)
カーボンの積層(レイアップ)の間に溶剤が入り込み、層同士の接着を剥がしてしまいます。 - 結果
見た目はきれいになっても、強度はスカスカ。走行中の段差やブレーキングの負荷に耐えられず、突然フレームが破断する大事故に直結します。
2. サンディングによる「繊維切断」のリスク
「じゃあ剥離剤を使わずに、ヤスリ(サンドペーパー)で削ればいいんでしょ?」と思われるかもしれません。確かにプロはそうしますが、これこそが最も高度な職人芸を要する工程なのです。
カーボンフレームの強度は、炭素繊維(カーボンファイバー)が途切れずに繋がっていることで保たれています。塗装を落とそうとゴシゴシ削り、誤って下のカーボン地(黒い繊維層)まで削ってしまうと、繊維が切断されます。
繊維が切断された箇所は、引っ張り強度に対する抵抗力を失い、そこが構造的な弱点(ウィークポイント)となります。プロのペインターは、「古い塗装を完全に除去せず、カーボン地が出る手前の薄いサフェーサー層やクリア層を数ミクロン残して止める」という、神業のような指先の感覚で研磨を行っています。これを経験のない素人が真似をするのは至難の業です。
【結論】どうしてもDIYするなら「上塗り」一択
「それでも自分で塗りたい!」という情熱がある場合、唯一安全なアプローチは「古い塗装を剥がさない」ことです。
今の塗装を全て残したまま、表面をサンドペーパー(#600〜#800)で荒らし(足付け)、その上から新しい塗料を重ね塗りする「オーバーペイント」の手法をとってください。これならカーボン素地を傷つけるリスクはありません。
もちろん、塗膜が二重になるため重量は50g〜100gほど増えますし、塗装の段差も出やすくなります。しかし、「数十グラムの軽量化」と引き換えに「フレームの寿命と自分の命」を危険に晒すことに比べれば、はるかに合理的な選択と言えるでしょう。カーボンフレームのDIYは、それほどシビアな世界なのです。
便利なスプレーバイクの活用

「2液ウレタン塗装が良いのは分かったけど、コンプレッサーなんて持ってないし、調合も難しそう…」
そんなDIY派のサイクリストたちの間で、今まさに救世主として世界中で爆発的な人気を誇っているのが「Spray.Bike(スプレーバイク)」です。
イギリス・ロンドンの有名自転車店「Brick Lane Bikes」と、ギリシャのペンキメーカーが共同開発したこの塗料は、従来の缶スプレーの常識を根底から覆す、自転車のためだけに作られた特殊塗料です。なぜこれほどまでに支持されているのか、その革新的な特徴を深掘りしてみましょう。
1. 失敗の最大の原因「液垂れ」が起きない魔法
スプレー塗装で最も多い失敗は、塗料を吹きすぎて液体がダラリと垂れてしまう「液垂れ(タレ)」です。しかし、Spray.Bikeは「ドライマットパウダー」という独自の成分を採用しています。
Spray.Bikeが垂れない理由
一般的なラッカースプレーは液体として噴射され、対象物に付着してから乾燥します。対してSpray.Bikeは、ノズルから出た瞬間、空気中で乾燥しながら粉末状になってフレームに付着します。
- 超至近距離噴射
通常のスプレーは20cm以上離しますが、Spray.Bikeは5cm〜10cmという至近距離から吹き付けます。 - 即乾燥
フレームに乗った瞬間には既に半乾き状態で定着するため、重力で垂れる暇がありません。これにより、初心者でも驚くほどムラなく塗ることができます。
2. 面倒な「プライマー処理」が不要
通常、アルミやカーボン、ステンレスといった素材に塗装する場合、塗料の食いつきを良くするためのプライマー(下地剤)が必須です。しかし、Spray.Bikeは特殊な成分配合により、基本的にプライマーなしで直塗りできる設計になっています。
もちろん、足付け(サンドペーパーでの研磨)と脱脂は必須ですが、工程が一つ減るだけで作業のハードルは劇的に下がります。「カーボンフレームの色を変えたいけど、下地処理で失敗したくない」という方にとって、既存の塗装の上から(軽く足付けして)直接塗れるこの塗料は、最も安全な選択肢と言えるでしょう。
3. ストリート感溢れる「マット仕上げ」とデザインの自由度
Spray.Bikeの仕上がりは、ピカピカの鏡面ではなく、ザラッとした質感の「ドライマット(つや消し)」になります。これがまた、近年のグラベルバイクやピストバイクのトレンドである「ストリート感」や「無骨さ」と相性抜群なんです。
マスキングアートに最適
塗料が垂れにくく、隠蔽力(下の色を隠す力)が非常に強いため、マスキングテープを使った塗り分けが簡単です。幾何学模様を作ったり、ステンシルシートで文字を入れたりといったカスタムが、プラモデル感覚で楽しめます。
「新車のような濡れたツヤ」を求めるならウレタン塗装に軍配が上がりますが、「自分だけの個性的でマットなバイク」を作りたいなら、高い機材を買うよりもSpray.Bikeを選ぶのが正解です。カラーバリエーションもヴィンテージカラーから蛍光色まで豊富なので、週末のDIYプロジェクトとして、世界に一台だけのバイク作りに挑戦してみてはいかがでしょうか。
メーカー保証や中古査定への影響

カスタムペイントで世界に一台だけのバイクを手に入れる。それはとても魅力的な夢ですが、その代償として失うものがあることを、施工前に必ず理解しておく必要があります。それは、フレームの「法的保護(保証)」と「経済的価値(リセールバリュー)」です。ここは非常にシビアな現実ですが、後で「知らなかった」では済まされない重要な話です。
1. メーカー保証(ワランティ)の即時喪失
Specialized、Trek、Cannondaleといった主要な自転車メーカーは、フレームに対して「生涯保証(ライフタイムワランティ)」などの手厚い保証制度を設けています。しかし、フレームの再塗装を行った瞬間、これらの保証は原則として全て無効(Void)になります。
なぜメーカーはそこまで厳しいのでしょうか? その理由は、塗装プロセスに潜むリスクにあります。
- 化学的ダメージ
塗装剥離剤や溶剤が、カーボン樹脂にどのような化学的変化(ケミカルアタック)を与えたかメーカー側で検証できないため。 - 熱ダメージ
塗装の乾燥工程で不適切な熱が加わり、樹脂が劣化している可能性があるため。 - サンディングによる肉薄化
剥離作業でカーボン積層が削られ、設計強度が保たれていない可能性があるため。
クラッシュリプレイスメントも対象外に
「製品の欠陥」に対する保証だけでなく、自損事故の際に割引価格でフレームを交換できる「クラッシュリプレイスメントプログラム」を受ける権利も失います。つまり、塗装後に落車してフレームが割れた場合、数十万円のフレームを定価で買い直す羽目になります。(出典:Specialized Global Warranty Policy)
2. 中古市場における「リペイント車」の評価暴落
「いつか乗り換える時に売ればいいや」と考えているなら、塗装はおすすめしません。中古自転車市場において、純正カラー以外のリペイント車は、評価が著しく厳しくなる傾向があります。
- 「事故車隠し」の疑念
買取業者の査定員は、リペイントされたフレームを見るとまず「クラックや修復歴を隠すために塗ったのではないか?」と疑います。中身が見えない以上、リスク回避のために査定額を大幅に下げるか、最悪の場合は買取不可(ジャンク扱い)と判断します。 - 好みの不一致
あなたにとって最高のカラーでも、買い手にとってはそうとは限りません。「純正カラー」こそが最も需要があり、個性が強すぎるカスタムペイントは買い手がつきにくいため、市場価値は下がります。
特にDIYによる自家塗装(缶スプレー等)の場合、プロショップによる施工証明書もないため、資産価値は「ほぼゼロ」になると覚悟しておいた方が良いでしょう。
3. 資産価値を守る代替案「カーラッピング」
「色は変えたいけど、保証もリセールバリューも守りたい」。そんなワガママな願いを叶える唯一の方法が、近年流行している「カーラッピング(バイクラッピング)」です。
専用の塩ビフィルムをフレームに貼り付ける手法で、以下のメリットがあります。
ラッピングのメリット
- 完全な可逆性
飽きたり売却したりする際は、フィルムを剥がせば元の純正塗装がきれいな状態で出てきます。 - プロテクション効果
フィルムが保護層となり、飛び石や紫外線から元の塗装を守ってくれます。 - 保証への影響小
塗装と異なり、フレーム本体に化学的・物理的なダメージを与えないため、メーカー保証を維持できる可能性が高いです(※メーカー規定によりますが、塗装よりは遥かに安全です)。
ラッピングに関して「どんなフィルムを選べばいいか」「DIYと業者依頼の費用差はどれくらいか」などをさらに深堀りしたい場合は、ロードバイクのラッピング施工手順と費用解説も参考になります。塗装との違いや、痛チャリ化したい人向けのアイデアまでまとまっているので、塗るか貼るか迷っている人にとって心強い比較材料になるはずです。
塗装は「一生このバイクと添い遂げる」という覚悟が決まった人だけの特権です。もし将来的な乗り換えが少しでも頭にあるなら、不可逆的な塗装ではなく、賢く遊べるラッピングやステッカーチューンを検討してみてはいかがでしょうか。
ロードバイクのフレーム塗装の結論

ここまで、プロショップへの依頼からDIY塗装のディープな世界まで、ロードバイクの塗装に関する情報を網羅的に深掘りしてきました。これだけの長文にお付き合いいただいた皆さんなら、もうお気づきかと思います。「フレームの色を変える」という行為は、単なるファッションではなく、コスト、リスク、時間、そして愛車への情熱を天秤にかける、非常に大きな決断なのです。
最後に、膨大な情報の中で迷ってしまった方のために、目的別の最適解を3つのパターンに整理してまとめとさせていただきます。ご自身がどのタイプに当てはまるか、最終確認としてご覧ください。
1. 「完璧な美しさ」と「安全性」を求めるなら【プロショップ依頼】
- 対象
高価なカーボンフレーム、思い出の詰まったクロモリのレストア、絶対に失敗したくない人。 - 理由
10万円〜20万円という費用は決して安くありません。しかし、それは単なる塗装代ではなく、「プロによる下地処理の精度」「専用設備による耐久性」「フレームを壊さない安心感」を買うための投資です。長く乗り続けるつもりなら、プロの仕事は間違いなく価格以上の価値を提供してくれます。
2. 「作る過程」と「低コスト」を楽しみたいなら【DIY / Spray.Bike】
- 対象
中古のアルミフレームやピストバイク、プラモデル作りが好きな人、失敗も笑い飛ばせる人。 - 理由
自分の手で苦労して磨き、塗り上げたフレームには、何十万円のハイエンドバイクにも勝るプライスレスな愛着が湧きます。特にSpray.Bikeを使えば、比較的低いハードルでクリエイティブなカスタムが可能です。ただし、カーボンフレームへのDIYはリスクが高すぎるため避けるのが賢明です。
3. 「資産価値」と「気軽さ」を両立したいなら【カーラッピング】
- 対象
将来的に売却を考えている人、飽きっぽい人、メーカー保証を維持したい人。 - 理由
塗装は「不可逆(元に戻せない)」ですが、ラッピングは「可逆(元に戻せる)」です。純正塗装を保護しながらイメチェンできるこの手法は、リセールバリューを気にする現代の賢いサイクリストにとって、最も合理的でリスクの低い選択肢と言えるでしょう。
どの道を選ぶにしても、愛車のカラーが変わることで、いつものサイクリングロードが新鮮な景色に見えたり、乗るモチベーションが劇的に上がったりすることは間違いありません。塗装は、マンネリ化した自転車ライフに新しい風を吹き込む最高のスパイスです。
この記事が、皆さんの愛車を理想の姿へと生まれ変わらせるための、確かな道しるべとなれば幸いです。塗装の世界は奥が深く、そして何より楽しいものです。ぜひ、あなたのスタイルに合った方法で、世界に一台だけのマイバイクを作り上げてくださいね。
※本記事で紹介した費用相場や施工内容は一般的な目安です。フレームの状態や依頼時期によって変動するため、正確な見積もりや施工可否については、必ず各専門ショップへ直接お問い合わせください。


